模試の心得 -判定は裏切る!-
つい先日、秋らしい気候になってきたと思っていたら、あっという間に肌寒くなってきた。
冬本番が訪れるこの時期、模試の動向に一喜一憂している受験生も多いことだろう。
良い判定が出れば嬉しいし、悪い判定が出れば落ち込む。モチベーションに大きな影響をもたらし、受験生のメンタルに大いに揺さぶりをかけてくるのが模試というものだ。
もちろん、模試は現時点での自分の学力を把握するために有益なものである。
しかし、それだけでは非常にもったいないだけの価値が模試にはある。
そこから一歩踏み込み、「模試のどういった部分に注目すべか」を正しく理解することで、判定の高低に感情を揺さぶられる以上の効果を得ることができる。
この記事では、模試の有効な活用方法について紹介していく。
模試の判定に一喜一憂しない
冒頭で言及したことではあるが、受験生は模試の活用方法を合格判定だけにあると考えてしまっている場合がある。むしろそういう考えの受験生は非常に多いと言っていいだろう。
判定が高ければ自信をつけ、判定が低ければ自信喪失してしまう。
しかし、A判定でも落ちる人は落ちるし、E判定でも受かる人は受かる。
模試の判定は絶対的なものではなく、あくまで参考程度に留めるべきだ。
模試でA判定を連発しようが、合格を保証してくれるものではないし、E判定があなたの本番での実力を確約しているものでもない。
模試の判定に意識がいってしまうのはもちろんしょうがないことではあるが、判定はおまけのようなものだとまずは割り切って置いておこう。
これは、E判定やD判定しか出ずに自信を失ってしまっている人より、高判定をとっている受験生に自戒を促すという意味で特に届けたいメッセージだ。
これがどういうことか、もう少し細かくみていこう。
理系科目の得点は当てにならない
模試の判定をおまけだと考えておこう、という大きな理由の一つが理系科目の得点はあてにならないということが挙げられる。
文系科目だって一緒じゃないか、と思われるかもしれない。
確かに英語や国語といった科目においても、単元の得手不得手があるかもしれないが、正直そこまで差が生まれるものではない。
というのも、数学や理科は個人間の実力差がより大きく反映される教科なのだ。
全員にとって難しい問題が出題される分には差が出づらいが、全員にとって簡単な問題が出た場合、一箇所の計算ミスが命取りになる。序盤で計算ミスをしてしまったがために、せっかく完答したのに結果は全滅、得点も限りなくゼロ点ということが簡単に起こりうる。
つまり、記憶・理解・出力(解答)で完結することの多い文系科目に比べ、理系科目の多くはさらに「計算」というフェーズが存在し、もう一段階多く得点差が開く余地がある、ということなのだ。
したがって、模試の判定が良かった場合でも、その結果をきちんと分解して確認するようにしよう。
英語や国語、社会でしっかりと得点ができている場合には、本番も同程度の得点が見込めるとみていいだろう。一方、数学や理科が突出して高得点だった場合には、自分の実力だと喜ぶのはその瞬間だけに留め、今回はたまたま自分の得意な単元が出たからだ、と冷静に捉えるように心がけると良い。
逆に、もし得点をとれていない理由が計算ミスによるものであれば、単に嘆くのではなく、なぜ計算ミスをしてしまったのかを突き詰めて考えよう。
時間が足りなくて焦ってしまったのか、式の途中でわからなくなってしまったのか、緊張して集中できなかったのか。計算ミスをしたくてする人はいない、ミスの原因は必ずあるはずだ。判定の低さを嘆く暇があるなら、その原因究明に努めよう。
最後に、もしあなたが文系科目で毎回安定した得点ができていないのであれば、それは実力不足であるといえる。模試の判定が如何に良くても文系科目の得点の安定化を図るためにも、継続的な勉強、対策を進めていこう。
注目すべきは判定ではなく全国順位
模試の結果というと主に判定に興味が向きがちだが、僕はあえて全国順位を気にせよと強く推奨したい。
判定と順位は相関があるだろうと言われればそれまでだが、いくら判定が低くても全国順位がそこそこに高ければ合格する可能性は十分にありえる。
全国順位の重要性を、実際の例を用いて説明してみよう。
全国順位からみる合格見込み
下図は慶應義塾大学経済学部A方式の過去5年の受験結果を示している。
定員が毎年420名なのに対して、合格者は例年約1000~1050人だ。
近年、難関校受験者が減っているせいか、2017年と2021年では約1200人受験者数が減っているが、おそらく2022年も4000人程度が受験するだろう。
そのうち約1割(400人)はそもそも受験をしない。
体調不良の人もいるだろうし、本命に受かったから受けない人もいるだろう。そこまで懸けていない人などは、めんどくさいという理由だけで参加しないこともあるかもしれない。
とにかく、実際にあなたと一緒に受験問題を得ける人数は約3600人と仮定しよう。
3600人のうち約半分(1800人)はそもそも受からない記念受験組や「ワンチャン受かればいいな」レベルの受験生だ(大体こういう人たちは教科間の休憩時間に仲間とつるんで騒いでいるのですぐに分かる)。こういった層はまず受からない、受験料を払いに来た養分と言っていいただろう。
残った1800人のうち、2~3割(360~540人)は滑り止め組だ。
このレベルの受験生は、先程とは対象的にどんなことがあってもほぼ確実に合格するレベルの受験生であると考えよう。
360~540人がほぼ受かるなら、もう定員が埋まってしまうじゃないか、と心配になってしまう人もいるかもしれないが、安心してほしい。彼らにとって慶應経済はあくまで滑り止めだ。本命の東大、京大、一橋、東工大、その他旧帝七大など、本命としている国立大学に受かればそちらに行ってくれる。このハイレベル受験者の半分程度は第一志望に合格してくれるので、結局慶應経済に入る落ち組は180~320人ほどに落ち着く。
2022年も合格者数は約1000人でることを考えると、合格枠にはまだまだ空きがたくさんある。
この必ず受かる組を除くと、残る合格枠はおよそ680人から820人だと言える。
つまり、慶應経済を本命としたガチ勢およそ1200~1400人前後の受験生が、この枠を争うことになるのだ。
倍率は約2倍。
1400人中680位を取ることができれば、あなたも晴れて4月から慶應生になれる。
これらの仮定は私立大学入試でしか通用しない、言ってしまえば詭弁のようなものだが、僕の経験、そして実際の数字から分析すると、あながち間違ったものと言えない意見になるだろう。
さて、仮定の話が長くなってしまったが、本題に戻ろう。
模試で高判定を取れる受験生は、おそらく全国順位的にも定員の範囲内にいることだろう。
どの面からみても合格の可能性が高いと判断されているわけだ。
しかし、たとえ判定が低くても、全国順位が定員の1.2~1.5倍の範囲内にいるのであれば、なたにも十分合格の可能性がある。
模試の順位をよく見てみると、ありがたいことに”志望者順位”というものを志望校別に集計してくれる。そのため、判定に注目するよりも、あなたと同じ大学を志望している受験生が「何人同じ模試を受けたのか」「その中で何位なのか」ということを注意してみてみよう。
そうして見えてきたあなたの全国順位のほうが、あらゆるデータを入れ込んで十把一絡げに出される判定よりも、よほど精度の良いあなたの現在地を示してくれるだろう。
模試はあくまでチェックポイント
僕が受験生だったとき常々不満に思っていたのが、模試の返却の時期だ。
だいたい受けてから1ヶ月後に返却されるが、1ヶ月前の模試の結果はあまり意味を成さない。
模試を受けたときと模試の返却があったときでは、もはや学力が全く違っているからだ。
1ヶ月前のあなたがA判定を取ろうがE判定を取ろうが、もはやどちらでも良い。
昨日よりも今日、今日よりも明日、と着実に成長することを心がけよう。
判定が悪くても「まあ1ヶ月前の自分はアホだったからな、でも今の自分はもう違うぞ!」くらいの余裕をもち、客観的に接することが重要だ。
模試で最も重要なことは「復習」
模試の復習はだるい。
本当に何故こんなにも面倒なのだろうかというくらいだるい。
一度解いた問題を解き直すというのは酷く無駄な気がするし、他にやるべきことがあるように感じる。
しかし、各有名予備校の講師陣が頭を捻って作った問題は、過去問と同程度貴重なものであり、市販の問題集を解くよりも実践的で有益だ。
勉強スケジュールを組んでいるだろうから、もし後から模試の復習時間を組み入れるとすれば気が滅入る作業でもあるだろう。だがそれでも、必ず復習はしよう。
どこで間違えたのか、問題のポイントは何だったのか、失点の原因は何だったのか…多角的に模試を見直すことで、普段の勉強では気づけない自分の弱点に気づけるかもしれない。
大体において、人間は苦手なものから逃避しがちなものだ。
苦手な科目や単元の克服のために頑張って勉強をするかもしれないが、それでも実際に間違えた問題を解き直すというのは苦痛である。
しかし、模試の復習を怠ると、同じような問題が本番に出たときに泣きをみることになる。
例え老害意見だと思われてもいいから、模試の復習だけはきちんとやろう。特に大学名がついた冠模試の復習は、過去問演習と同じくらい気合とやる気を持って臨んでほしい。
先輩に、模試の類似問題が2問出題されたことが要因で東工大に受かった人がいた。
極端な例になるかもしれないが、模試というのはそれだけ精度の高い問題にあたることができるのだ。解けなかった問題は、必ず解けるようにしておこう。
編集後記
忘れもしない、高校3年生の京都大学実践模試。
やれ滑車だの重りだのバネだのが出てきて、滑車が回転しながら重りが振動してバネが伸び縮みして、といったとにかくややこしい状況を考えなければいけない難しい物理の問題があった。もちろん全然わからず、ほぼ得点ができなかった。
模試が返却された後も、「こんな難しい問題は意地悪な予備校講師が作ったものだ。本番はこんな問題が出るはずがない」と高をくくって復習をせず本番を迎えた。
すると、それは出てきた。
滑車と重りとバネが描いてある図がみえた。
その時思ったのだ。
受験の神様に見放されてしまったと。
「お前、この問題復習しなかっただろう?せっかく模試で似たようなの出してあげたのに。」
本当に、受験の神様がこういうのを聞こえた気がした。
そして今も、僕はこのときの夢をみてうなされることがある。
よくある失敗談なのかもしれない。
受験を舐めていて、頑張りが足りなかったと思われることだろう。
しかし、受験は水物で、どうなるかなんて誰にもわからないものだ。
出来得る限りの備えをして、僕のような後悔は誰にもして欲しくない。
その中でも、模試を振り返るというのは特に重要なことだと覚えておいて欲しい。
受験の神様が当日微笑んでくれるように、全力を尽くして頑張ってほしい。