2022年 慶應義塾大学経済学部 英語 入試問題レビュー
約15年ぶりに母校、慶應義塾大学経済学部の英語の入試問題を解いてみた。
まず最初に感じたことは、自分が受験生だったときとの出題形式の違いについてだ。
確かに十数年も時間が経てば出題形式も変わって然るべきなのだが、それでも一つ残念だった点がある。それは、慶應経済の伝統であった超長文読解の形式だ。今までのものからは少し崩れ、言ってしまえば平凡な、どこにでもあるような入試問題になってしまっていた。
時間内になんとか読むことができる、というような圧倒的な分量を前にして、おぼろげながら内容を理解し、多少の文法知識を犠牲にしても内容把握問題を解いていく、といった懐かしの形式は影を潜めてしまったのだ。
解いてみた感じ、単調な単語挿入問題や珍しい慣用句を入れる問題などが大半になっていた。以前と比べ、「文章の内容を理解しているのか」という根本的な部分が変わってしまい、問われなくなっているように思った。
さて、あまり懐古主義的な発言ばかりでは良くないので、良い点も書いておこう。
近年は上に記したような出題形式になっているようだが、1つのテーマに沿って、意見の異なる文章を複数読み(大問1~3)、それについて自分の意見を英語で書かせる(大問5)という内容は形式としては非常に良い。
大問としては複数問にまたがっているが、今回であれば「ミニマリスト」という一つのテーマに焦点を当てて、そこを深堀りしていく。もちろん、単一の話題であっても、意見は様々にあるわけで、そういうものを鳥瞰的にみる、解釈する、そしてそこから自分の意見を作っていく、という作業は非常に大切であり、入試問題でこのような能力を問うのはとても重要であるように思う。
そういった意味では、きちんと試験で測る実力が変わってきており、求める人物像に合わせた内容になってきているのだろうな、と考えられる。
大問1 ミニマリストについて肯定的な意見
現代人はとにかく消費が多い。
それが経済的、精神的、環境的、社会的に人々を苦しめている。
ミニマリストとなって、自分の消費のあり方やモノのあり方を見直していこう、というような内容。色々論点に穴があるようには思えるが、総じて「一般的なミニマリストが考えていること」といった内容でまとめられている。
(1)✕(2)✕(3)◯(4)✕(5)◯(6)◯(7)◯(8)◯(9)◯
序盤で失点を繰り返すという幸先の悪い展開。
完全なる言い訳になるが、印刷代をケチってパソコンの画面上で問題文を読みつつ解いていたのだが、これだけ穴埋め問題ばかりだと、いちいち英文と問題との間をスクロールで行ったり来たりしながら解くというのが非常にやりにくかったため、余計な体力を使ってしまった。
印刷代をケチってはいけない(戒め)
大問2 ミニマリストについて否定的な意見
こちらは大問1とは逆に、文章に対する対抗文的な存在だった。
ミニマリストが言っているような経済的恩恵は幻想だし(ミニマリスト向けの商品などがあり、ミニマリスト自体も全く無駄に思えるような買い物をしている)、環境保護的な利点はただ環境負荷を他者に転嫁しているだけ、といった形で議論が展開されていく。
ミニマリスト批判をし、そこから大量生産を支持するような意見に向かっていくのは個人的にいまいちピンとこなかったが、大問1からのきれいな流れで反論がされていくので読みやすい。
(10)✕(11)◯(12)✕(13)◯(14)✕(15)✕(16)◯(17)◯(18)◯(19)◯(20)◯(21)◯(22)◯
こちらも慣用句系の問題に苦しめられた。
(12)は内容把握系な印象も受けたので、これはきちんと抑えておきたかった。
大問3 アパレル業界の廃棄物の多さ、環境負荷の大きさに関する文章
大問3は少し話題が変わり、アパレル業界の大量生産大量廃棄、そして生産過程から廃棄に至るまでの環境負荷の大きさなどを取り上げた文章。
直接的にミニマリストとは関係のない文章ではあるが、企業が如何に無駄な製品を環境負荷のもとに製造しているのか、という意味ではミニマリストのテーマとも通じるものがある。
個人的に文章としては最も興味深く読めた。
(23)◯(24)◯(25)◯(26)◯(27)◯(28)✕(29)◯(30)◯(31)◯(32)◯(33)✕(34)✕(35)◯
こちらは最後の読解問題のところで、2択問題を2問外してしまったのが痛かった。
こういったポイントで失点してしまうあたり、実践感覚が薄れているのを実感してしまう。
大問1~3において、文法問題に関しては合っているものも多かったが、全体的に難しい内容であったように感じる。まあ読解に比べて文法に力を入れて来なかったわたしだけかもしれないが。
大問4 和文英訳問題
ここで急にミニマリストの話題から外れ、日本語の会話文をこなれた英語にしていく、という問題になる。昔もこういった類の問題があった気がする。
問題文を書くのは大人の事情的によろしくなさそうなので、私の解答のみ記載しておく。
採点は皆さんに任せたい。
子供が学校に何を持ってきてしまったのかが気になるところである。
RI: I do not want to go too deep on this but the words you said to Tanaka san were not appropriate.
D1: But in that kind of case, the parents will not realized how significant the issue is, if I did not tell them directly.
R2: Although the issue is very serious, you cannot say that parents are the only ones to take the responsibility.
D2: Generally speaking, it was careless of the parents to allow their children to bring su thing to school.
大問5 英作文
大問5で話は再びミニマリストに戻る。
文章1~3を元に、自分の意見を英語で書くというものだ。
綴りミスや文法ミスも散見されるが原文ママを記載する。
ここに関してはきちんと見直すべきだったと反省した。
英作文に関しては、抑えるところさえ抑えておけば大きく失点することはないのではないかと思ったが、予備校の難易度判定をみると「難」だったので、ここでもわたしの感覚は世間一般とずれているのかもしれない。
(A) Japanese government should not encourage their citizens to adopt minimalist lifestyle.
First of all, Japanese economy is shrinking and not growing for more than decades now. If Japanese government promotes this kind of lifestyle, economy will slow down in rapid pace than now.
It is true that article 1 did mention that minimalist lifestyle is not encoraging to spent less, its more about reconsider how we spend money. However, this does not give direct answer to economy. Buying more local food at farmers market and less from mass production will harm domestic and international supply chain, people involve at this trading dynamics.
Article 2 is also too simplifing the issue. It is sometimes good buying products from mass production but this is not always the case. Buying from locals sometimes better when taking amount of waste.
Japan should be free when thinking about individuals consumption habit. Let people do whatever they want to do. Some will be minimalists and some will be shopaholics. But that is their choice.
総括 慶應義塾大学経済学部英語対策
冒頭で述べたとおり、慶應経済伝統の超長文読解は依然として健在であるが、わたしが受けていたときとは問題形式が大きく異なっていた。内容把握問題よりも、単語挿入や文法問題の割合が増え、大雑把に言うと「一般的な」入試問題になったと言えるだろう。
また、単語挿入や文法に関しても、典型的な「よく出題される」問題ではなく、聞き慣れない慣用句や非常に迷うような選択肢があるなど、難易度は高かった。
英作文では、一つのテーマに関して様々な意見の文章を読ませた後に、あなたはどう思うか、ということを問うて来る。広く関心のアンテナを広げ、肯定的・否定的な意見の両方を知り、その上で自分の意見を簡潔かつ、肯定的および否定的な意見それぞれへの理解を示しながらまとめていかなくてはならない。
こういった問題を解くにあたり重要となってくるのは、普段から広範なテーマの本を日本語でも英語でも読んでいくことだろう。
日本語で読んでも意味がないと思われるかもしれないが、決してそんなことはない。
英語がわからなくても、少なくともどういったテーマを扱っているのかさえわかれば、知っている単語を拾っていけば、それだけで大枠の内容をとらえることができるからだ。
例えば、本試験ではそもそも「ミニマリスト」を概念として理解していなければ、英文を読んでもピンとこないだろう。「あーミニマリストっていうのは、物を持たなかったり、断捨離をして、シンプルなライフスタイルを送る人たちで、最近話題になっているよね」ということを概念として知っていれば、難しい英文を読んでも、理解度は格段に変わってくる。
受験勉強中心の生活をしていると、読書が「悠長で時間の取られる趣味」というように感じられるかもしれない。しかし、通学中であったり、就寝前であったりと時間をみつけて読書をしてほしい。
大書を読めとは言わない。Newsweekを日本語版と英語版でそれぞれ1記事だけ毎日読む、というのだって短時間で見聞を広める機会となる。Wiredなんかも興味を引く記事が多い。
受験対策としてだけでなく、見聞を広めること、いろいろなことに関心を持つことは学びの第一歩だ。興味を引いたことはぜひメモしておき、大学入学後はじっくりと研究したり、追求していってほしい。
最後に、入試問題および解答・分析についてはこちらを参考にした。