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2021/11/22 2022/07/11

ハイレベル私立文系受験者向け – 狙いは数学受験 –

ハイレベル私立文系受験者向け – 狙いは数学受験 –

私立文系というと、大抵の人は英国社の3教科受験が主流だと考える人は多いと思う。
しかし、それは誤った認識だ。

文系受験生であっても数学を含めた英国数という受け方をできる大学は多く、慶應の場合には英数小論た英数社という受験方式がある。

別記事でも一部書いたが、個人的には受験における理系科目は過小評価されている気がしてならない。

「文系は数学ができなくていい」「文系は数学を使わない」などといった間違った固定観念を持っている学生や教育者は多いのだが、数学の重要性は理系文系の違いを問うものではない。

そこで、この記事では文系の数学受験の有用性を書いていく。
数学が課される私立大学を狙っている受験生をはじめとした文系学生にとっては特に有益な分析になると思うので、ぜひ一読してほしい。

人が苦手なものでこそ、大きな差がつく

文系だから数学ができないのか、数学ができないから文系なのか
卵が先か鶏が先かといった議論になるが、大抵の場合「文系=数学が苦手」という認識が存在する。

そもそも自分の人生に数学など必要がないと、たかが十数年しか生きていない時分に勝手に悟ってしまう学生のなんと多いことか。数学を避け、盲目的に英国社を受験科目にする学生は実に多い。

受験とは、人よりも高い点数を取るように争う一種の競技である。
当たり前のことだが、他人が苦手なものを自分が得意にしていたほうが絶対的に有利だ。
皆が苦手な税金や法、医療に関する知識を持つことで、他の人よりも遥かにお金を稼ぐことが出来る職業に就くことができることからも、それがわかると思う。

逆を言うと、マジョリティが得意なものを得意になっても、大きな差別化要因とすることはできない。だからこそ、単に数学を避けるのではなく、戦略的に数学受験を選ぶ、という選択があることを知っておこう。

場合によって、その選択が合格可能性を上げることもある。

データで見る文系数学受験の有用性

論より証拠ということで早速、早慶の文系学部数学受験の有用性をみていこう。

こちらのデータを参考に分析をおこなった
https://eigo-dosurukosuru.net/daigakunyuushi/shidai/soukeijouri-saiteiten/
https://passnavi.evidus.com/search_univ/2370/border.html

慶應義塾大学経済学部

まずは我が母校である、慶應義塾大学経済学部だ。
慶應経済A方式といえば、国立受験組や理系本命組の滑り止めや併願校としてよく使われる学部・方式である。

時に理不尽なほど難しい数学が出題され、試験終了と共に悲鳴が上がると噂されるレベルの試験であり、近年は特に数学が難しくなってきていることで有名なようだ。

A方式ではレベルの高い数学に挑む必要はあるが、英社小論で挑むB方式と比較すると、多くの年で合格最低点が低いことがわかる。

過去5年のデータをみると、2018年に限りA方式のほうが合格最低点が高くなってはいるが、平均するとB方式の合格最低点の方が18.8点も高いことが見て取れる。

よりデータをさかのぼり、2006年からの合格最低点の推移をみても状況は変わらない。
過去16年間の間で、A方式の合格最低点のほうがが高かったのはたったの4回のみ。
平均するとB方式の合格最低点が12.9点高くなっている。

慶應義塾大学経済学部A方式(英数小論)とB方式(英社小論)の過去5年の合格最低点の推移

慶應義塾大学商学部

次に、慶應商学部をみていこう。

こちらもA方式は数学がある英数小論、B方式は英社小論である。

商学部における数学の優位性は、経済学部と比べてより露骨となる。

過去5年間、A方式のほうが常にB方式よりも合格最低点が低く、またその差異も45.4点と非常に大きな差がある。45.4点ともなれば、大問を一つ丸々落とすかどうか、というレベルの点差だ。

経済学部と同様、過去16年の合格最低点の推移をみると、2006年から2021年までの16年間で、A方式の合格最低点のほうが高くなったのはたったの1回だけだ。
平均した合格最低点の差異にいたっては、経済学部での12.9点と倍以上離れ、30.1点となっている。

慶應義塾大学商学部A方式(英数社)とB方式(英社小論)の過去5年の合格最低点の推移

早稲田大学商学部 2021年

次に早稲田大学をみていこう。

早稲田に関しては、慶應ほど簡単に語ることができない。
というのも、これまでの試験において慶應のように数学受験組と社会受験組を分けてはおらず、その上で「得点調整」なるものを行っていたからだ。また、合格最低点のデータも慶應ほど詳細に出していないこともある。

ただし、商学部に関しては2021年から地歴公民型と数学型に分かれた。
それにより、当該試験のみではあるが、傾向が非常にわかりやすくなった。
下図をご覧いただくと分かる通り、数学と社会で受験者平均点が驚くほど違っている。

ちょっと早稲田さん?これは受験として成り立っていなくないかい?と言ってしまいたくなるほどの差だ。

今後はもう少し差が縮まるよう、各科目の難易度調整が実施される可能性はある。
それでも、おそらく合格最低点においては概ね地歴型>数学型というトレンドは続くように思える。

早稲田大学商学部2021年受験者平均点(いずれも60点満点)

当然ながら、合格最低点も社会科目と数学で大きく差が開いており、難易度や科目の差があるとはいえ、割合で言えば遥かに少ない正答率で試験に突破できることを示している。

早稲田大学商学部2021年合格最低点

早稲田大学商学部 過去15年データ

続いて、過去15年のデータから見て取れる情報をあげていこう。

下のグラフから読み取れることは2つある。

一点目としては、総じて数学は他の社会科目よりも受験者平均点が低くなっているということだ。

2007年から2021年までの過去15年間、数学の受験者平均点が他の社会科目(日本史・世界史・政経)よりも高かったのは2013年の対日本史だけで、ほかは全年、全科目で数学の受験者平均点が最も低くなっている。

続いてもう一つ、各科目の標準偏差をみてみよう。
統計学の概念となるが、標準偏差とは平均点からのブレの大きさを指す。

例えば日本史は平均点が32.94点、標準偏差が4.67点だ。
これは32.94点の±4.67点(28.27点~37.61点)の間に、受験者の68.27%が存在することを意味している。

これらのデータから何が読み取れるか。

世界史は4科目の中で平均点が最も高いが、標準偏差が一番小さい。
これは多くの世界史選択者が、ほぼ同じ程度の点数をとっていることを意味する。
つまり、「早稲田の商学部を受ける受験生は世界史がみんな得意であり、受験生間の得点差が少ない」と言える。

それに比べて数学はどうかというと、平均点は一番低いのに標準偏差は2番目に大きい。
これはつまり、数学受験者は「できる人はめちゃくちゃできるが、できないやつはほぼできない」という事実を示している。

受験者間の得点のブレが大きい、ということは、数学を鍛えた受験生であれば他の受験生に大きな差をつけることができると言える。

早稲田大学商学部の過去15年間の社会または数学の受験者平均点(合格最低点ではないことに注意)いずれも60点満点

それでも数学受験は選択肢にはいらない…?

当然ではあるが、社会科目と数学とでは難易度を同列に語ることはできない。
統計学的に見れば数学受験は合格最低点も低いし、有利であると言えよう。
しかし、それと自分が数学の問題を解けるかどうかはまた別の話だ、と言われたらその通りだ。数学は苦手であり、そこに時間をかけるよりも世界史を勉強するほうが絶対に良い、と思う人も多いだろう。

しかし、日本最難関の大学を狙う人に対しては、あえて期待を込めてキツイことを言おう。

文学、哲学、歴史といった人文科学系に行く人ならばともかく、経済学、社会学、政治学といった社会科学系に進むのであれば、絶対に数学はできたほうが良い。経済学部の学生であれば、数学ができないのはもはや論外であると言っておく。

これは決して老害意見としていっているわけではない。
大学自体がそういう確固たる姿勢を示しているのだ。

大学は数学巧者を求めている

なぜ、数学の大切さをこれだけ説いているか。
それは、例え文系学部であっても、大学は数学人材を求めているからだ。

その根拠は、学部・方式の募集定員で明確に示されている。

早慶文系学部の方式別募集定員

募集定員が受験においてあまり厳密でないことは別記事でも記載したが、それでも募集定員の大小は考慮に入れるべきだ。

上記のグラフから分かる通り、慶應大学は「数学ができる人大好きアピール」が甚だしい。
申し訳ないが社会受験の人はおまけみたいなものだということも、見てもらえばわかるだろう。

早稲田は商学部しか分析していないが、まだまだ社会科人材に重きをいているようにみえるだろが、それは違うと言える。なぜなら、2020年までは数学受験と社会受験を一緒くたに募集していたのに、2021年から数学受験を独立させたからだ。

つまり、早稲田も「数学ができる人」を別枠で確保していきたいという明確な意志表示をしているのだ。また、ここまで特段挙げてこなかったが、早稲田の政治経済学部は2021年度から数学受験を必須にしている(https://toyokeizai.net/articles/-/233072)。

こういった傾向をみれば、早稲田において数学重視化の流れにあることは間違いない。

データから導くことの出来る現実は、慶應経済と商学で社会受験をするということは「定員数が少ない」、「合格最低点が高い」という2重苦に自らを追い込んでいる、ということになる。
よほどのドMか歴史オタクでも無い限り、賢明な判断とは言えないだろう。

また、ここまでは早慶の例しか挙げてこなかったが、上智大学や関関同立でも文系学部の数学受験は可能だ。

「文系だから社会受験しかない」などという認識は改めるべきであり、むしろそういうステレオタイプな数学アレルギー勢と大きな差をつけるためにも、積極的に数学受験にチャレンジしてほしい。

数学ができると得すること

社会科学系文系学部では社会よりも数学のほうが有利だ、というのは何も受験に限った話ではない。

大学に入ってからも求められる数学力

大学卒業を前に勤しむことになる「就職活動」においても数学力が問われることになる。
就職活動では、一次選考としてエントリーシート(ES)と呼ばれる願書(のようなもの)と、基礎学力チェックということでWebテストあるいはテストセンターでの試験を受けることになる。
その基礎学力チェックには、数学の問題が出てくるのだ。
事ここに至り、文系と理系は関係がないのである。

正直なところ、数学ができる人からしたら舐めてんのか?と感じるような問題であることが多いのだが、高校時代から数学を避け続けている学生からすると、これがとてつもなく難しく感じるらしい(個人的には解法パターンを知ってるかどうかで解けるかが決まる類のくだらない問題も多いので、このWebテストは数学的な楽しさが微塵も無い実にアホらしいものだ)。
それなりの大学に通っていれば学歴フィルターでESとWebテストは難なく突破できるかもしれないが、高学歴同士の争いとなる場合にはWebテストの点数も重要となってくる。そう考えると、数学から逃げ続けることは得策ではないということになる。

この点、難関国立大学では文系であれど二次試験に数学を課すことがほとんどだ。
文系だからといって数学の勉強から逃げることができないようになっている。

そういった意味でも、難関国立大学生は優秀なのだと私は思っている。
私が個人的に思っているだけでなく、事実国立大学生の方が就職活動においても有利なのだ。そういった評価が下されるのも素直に頷けるというものだ。
ちなみにここで言う難関国立大学とは旧帝国七大学のことなので、2次試験で数学を課さない国立大学はその限りではない。

大学の勉強でも数学数学数学

また、ミクロ経済学やマクロ経済学と呼ばれるいわゆる理論経済学は、徹頭徹尾理系的な学問だ。数学がわかりませんではお話にならない。

また、経済学部でなくても、社会学系の研究でアンケート調査などをしたときには統計処理を行うことになる。統計処理を行うためには、当たり前だが統計学の知識が必要となり、統計学とはこれもまた理系的学問だ。

こういう意味で言うと、日本の文系・理系という進路の分け方は実にナンセンスなものであることがわかる。人文科学、社会科学、自然科学という3領域で学問分野は分けるべきだ。

数学ができることの優位性は就職活動に限った話ではない。

もし海外大学院(および一部国内のトップ大学院)に進学したいと思っている場合、Graduate Record Examination(GRE)と呼ばれる大学院受験者向けの共通試験(アメリカのSATの大学院バージョンみたいなものだ)を受けることになる。

このGREの受験科目は英語、数学、小論(エッセー)だ(奇しくもどこかの経済学部の入試科目と一緒である)。

そして、このGREの英語は頭がおかしいくらいに難しい。
アメリカの大学生が大学院に進むために受ける英語の試験であるわけだから、非ネイティブの日本人にとっっては意味がわからないレベルの難易度だ。まともに勉強していたら発狂して虎になってしまう。したがって、日本人留学生はGREの数学で満点に近い点数を取ることが合否の分かれ目となる。

そう、ここでもまた物を言うのは数学なのだ。

これだけ重ねて語れば、少しは理解してもらえたと思う。
数学ができて得することはいくらでもあれど、損することはなにもないのだ。

編集後記

数学愛好家の家に生まれたため、我が家には数学ができない者はイズミ家ではないというような雰囲気がどことなく流れていた。

今でも覚えている出来事がある。
中学時代、都立高校の入試が翌週に控えているというのに、センター試験の数学を解かされたことだ。

もちろん、普通は中学生の知識で解けるわけがないのだが、その年はたまたま中学数学で解ける図形の問題が出題されていて、父からこれも勉強の一環と言われ解かされた。
「大学への数学」はイズミ家の購読書であり、私も宅浪時代には大いにお世話になった。

そんな家庭であったが、兄は数学がめっきりダメだった。
しかし農学部という理系の割には数学が必要とされないオイシイ学部へ行き、イズミ家たるもの理系であるべしを遵守したことになる。もちろんそんな家訓はないのだが。

一方の私は、現役で明治大学理工学部建築学科に合格進学したものの、結局は中退して私立文系(笑)に行ったため、家では白い目で見られることになる。

しかし先述の通り、経済学はかなりの程度理系である。
ミクロ経済学およびゲーム理論を専攻し、解析学や経済数学も必要以上に学んだので、数学アレルギーはない。おこがましくて理系ほど出来るとは言えないが、その後の大学院留学においてはGREの数学では無事ほぼ満点が取れたし、今の仕事でもやはり数学的思考力に助けられている。

そういった意味でも、数学を疎かにしないで本当に良かったと思っている。
数学を学んだ恩恵は、大学、大学院、社会人生活と長きに渡って得ることができたのだ。

 

 

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